本当に怖い自転車事故

吉岡です。こんにちは。

 

自転車事故で加害者や加害者の親に一億円近くの賠償を命じる裁判例が出ています。

免許もなく乗れる自転車はその気軽さゆえに事故を起こしたときのことを考えず賠償保険に入らないまま乗っているケースが多くあります。
加害者側も巨額の賠償額を負担するのは困るのでしょうが,もっと困るのは賠償が十分にされない被害者側です。治療もまともに受けられない,自腹で治療費を払ったけど加害者から回収できない……。実際に保険に加入していないために支払えない事例は残念ながらよくあります。

最近はコンビニやスマホから加入できる自転車保険も多くあるようですので,もしもの時に備え,被害者になる方が困らないように必要な自転車保険には入るようにしておきたいものです。

ただ,実は自転車保険には加入していなくても,自転車事故に適用できる保険に加入しているのに知らなかったということもあります。

以前の事案で見つけ出した保険にはこんなのがありました。
自転車に直接付保するものではなく,加害者の父親名義のマンションの火災保険に個人賠償責任保険(個賠)が特約で付保されていました。それを見つけ出してその保険から賠償金を引き出したわけです。
(個人賠償責任保険とは,個人の日常生活や住宅の使用・管理等に起因して第三者の身体や財物に損害を与え,賠償責任を負担した場合の損害を包括的にカバーする賠償責任保険です。)

自転車事故に遭った場合は,その自転車に保険がついているか,ついていなくても上記のような火災保険や自動車保険に特約としてつけられた個人賠償責任保険などがないかをまずは確認してみてください(事故当時に入っていた保険を確認してください)

 

さて,問題は次です。
賠償保険がありました。よかったですね。とはいきません。特に後遺障害が遺った場合が問題です。

車事故の場合であれば,後遺障害が遺った場合,損害保険料率算出機構(料率機構)にて後遺障害認定手続きを行い,後遺障害等級を認定してもらったうえで示談や裁判に臨むことが一般的です。
この料率機構は交通事故調査業務の専門機関として,独立した立場から公平に後遺障害認定手続きを行います(等級認定結果に対しては異議申し立てもよく行いしますし,言いたいことも山々ありますが……。この点はまた後日)。
ところが,上記の料率機構は主に自賠責に関する事務を取り扱う団体ですので(参考:損害保険料率算出団体に関する法律第3条5項1号),自車事故について後遺障害認定手続きを行うことはできません。

つまり,自車事故では後遺障害が遺っても自賠責から自賠責保険金はでませんし,後遺障害等級の認定手続きも行われないのです。

これはどういうことを意味するかといいますと,自車事故ならまずは被害者請求を行い最低限の賠償額である自賠責保険金を確保したうえで相手方保険会社との示談や裁判に臨むことができ,被害者の経済的な負担を軽減することができますが,自車事故では一旦自賠責保険金が入るということがありませんので,基本的には示談や裁判が終わるまで1円も被害者に入ってきません。

それともう一つ。等級が出ないということは,相手方保険会社は最低保証を意味する自賠責保険金額を無視して示談額を提示できるわけです。

たとえば,自車事故により神経症状が残り,12級が認定されれば,自賠責保険金として最低224万円を被害者は手にすることができます(高齢者など自賠責金額上限に届かない場合は除く)。

しかし,自車事故の場合,自賠責がないので,最低保証としての自賠責が機能しません。そうすると,相手方保険会社は同等の神経症状の場合でも上記の224万円という数字を無視して示談額を提示してきます。自賠責に求償できない保険会社は自腹を切る額を減らしたいわけです。

実際の事例でも,相手方保険会社が(料率機構に拠らずある意味ご親切にも)独自に12級13号の神経症状を設定したうえで,被害者に約130万円の提示をしています。法律相談にお越しいただき,弁護士から説明を受ければその提示額が極端に少ないことをお分かりいただけると思いますが,知らない方であればまぁそんなものかとハンコを押してしまうかもしれません。因みに,弁護士が交渉や裁判で使う裁判基準で計算すると12級13号の場合の後遺障害部分(逸失利益と後遺障害慰謝料)の適切な賠償額は平均約630万円です。

 

また,この事例でも等級は相手方保険会社が独自に12級と設定していますが,これは保険会社が自分で設定したものですから,こちらが裁判基準で上記の約630万円など適切な賠償額を請求すれば,そんなにいっぱい請求するんなら「やっぱり12級じゃありませんっ」と設定変更してくるかもしれませんし,そもそも料率機構での認定がない以上,等級の主張・立証は被害者側で行わなければなりません。これは交通事故を専門とする弁護士でないとなかなか困難です。また等級が大きくなればなるほど保険会社提示額と裁判基準での賠償額の差額は大きくなります。

 

このように自転車事故は本当に怖いんです。乗る方はまず乗る頻度などに応じて適切な賠償ができる保険に入る又は火災保険や自動車保険に個人賠償責任保険が付保されていないかを確認されてみてください。そして,もし自転車事故に遭ってしまったら,迷わずフリーダイヤル0120-25-3354にお問い合わせください。事故直後からできるだけのサポートをさせていただきます。

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吉岡 誠
弁護士法人あさかぜ法律事務所 代表弁護士 「明けない夜はない」を胸に依頼者とともに。 相談の席で弁護士が真摯にお悩みを受け止めることで、心と体の重荷が解き放たれる。 癒えた心で法的助言を聞き、新たな未来の光を見つける。 その後、依頼者と弁護士が共に歩み解決へ。 明けない夜はありません。